シニア期になった
愛犬に関するお話。
(ケアと介護)
監修:小澤 真希子
(関内どうぶつクリニック)

シニア期になった
愛犬に関するお話。
(ケアと介護)
監修:小澤 真希子
(関内どうぶつクリニック)
近年は獣医療や飼育技術の進歩による伴侶動物の長寿化に伴い、高齢動物の疾病や問題行動に遭遇する機会が増えています。それらが飼い主と伴侶動物のQOL(生活の質)を低下させる場合があります。
このコンテンツはシニア期を迎えた愛犬のQOLを保つために、知っておいていただきたい愛犬の高齢化による行動の変化や介護のポイントについてご紹介します。
愛犬の高齢化について
シニア犬の介護について
愛犬の高齢化について
壮年期から老年期への変化
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老齢になると目や耳が悪くなり、筋力も低下して病気に罹りやすくなります。脳も老化して体積が小さくなります。
いろいろな身体機能が衰え、今までできていた排泄等の日常生活や家族とのコミュニケーションが上手くできなくなることがあります。
犬も「認知機能不全症候群」というヒトの認知症に類似した症状を呈し、介護が必要になる場合があります。
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飼い主(ご家族)の心構え
老化は避けられない加齢性変化ですが、良い生活習慣により進行を遅らせる、介護グッズを使って老化症状を緩和することはできます。早めの対策で愛犬が年をとっても快適な生活を送れるようにしてあげましょう。
犬の老化や認知機能不全症候群の特徴、老化予防に役立つ栄養管理や生活習慣について知っておきましょう。
性格の変化
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シニア犬は、頑固になる、反応が鈍くなる、寝てばかりいる、トイレを失敗する、オスワリやオテをしなくなるなど行動の変化がよくみられます。加齢と共に新しいことを受け入れるのが難しくなり、モチベーション低下などの変化が生じるためです。
一方、暫くトレーニングをしていなかったため、単に忘れてしまった場合や、病気が隠れている場合もあります。定期的に動物病院で健康診断を受けると安心でしょう。
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シニア犬の認知機能不全症候群
認知機能不全症候群について
犬でも認知機能不全症候群というヒトの認知症と似た状態になることがあります。
14歳以上のシニア犬に発生が多く、17歳以上では半数以上に徴候がみられます。よく観られる症状は、飼い主の呼びかけにほとんど反応しない、夜起きて鳴く、排泄を失敗する、目的もなく歩き回る、部屋の角や隙間で行き詰まるなどです。頭の下がった姿勢、ぎこちない歩き方、視力低下など感覚機能の変化もみられます。
但し、これらの症状は脳神経の病気やホルモンの病気でも観られることがありますので、診断には動物病院を受診することをお勧めします。
(資料提供:小澤真希子)
原因
脳の老化により脳組織が減少するためと考えられています。不安やストレスなどで症状が悪化します。
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成犬の脳 -
認知機能不全症候群の犬の脳
(資料提供:小澤真希子)
治療
現在、犬の認知機能不全症候群を根本的に治す薬はありません。症状を緩和する薬物療法、進行を抑える目的でサプリメント等を給与して対処しています。また高齢犬の不快感をとる、生活環境や接し方を変えて、不安やストレスを取り除くことで症状を緩和できることがあります。
動物病院やシニア犬のケアを専門に行っている施設にご相談ください(診断、薬物療法については動物病院に相談してください)。
シニア犬の介護について
シニア犬のための生活環境・整備
安全な環境
犬も高齢になると足腰が弱くなり、つまずく、滑る、転ぶなどの事故を起こし易くなります。滑りにくく、段差がない、転んだ時も衝撃が少ない安全な環境で生活させてあげましょう。
さらに後退することが苦手になる、室内の環境が把握できなくなることもあり、部屋の角や隙間、段差が危険な場所になります。円形サークルに入れて、安全なサークル内に行動範囲を制限するのも良いでしょう。
便利グッズ滑り防止マット、衝撃吸収マット、犬用滑り止め付靴下、犬用靴、円形サークル
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身体に負担が少ない環境
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室内では移動が少なくて済むように、水飲み、ベッド、トイレ等の場所を近くにまとめましょう。
あまり寝返りをうたなくても、痺れや血行障害にならないよう、軟らかく体圧分散性に優れた寝床(マット等)を使いましょう。便利グッズ低反発マット、高反発マット
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(資料提供:小澤真希子)
安心できる生活習慣
シニア犬は目や耳が悪くなり、人が近づいても気が付かないことがあります。声をかけて触る、前方からゆっくり近づくなど配慮をしましょう。また、食事や散歩などの日課は毎日、規則正しく行いましょう。大きな環境の変更はできるだけ避けましょう。
掃除しやすい環境
食べこぼしや粗相をした時のために、シニア犬の生活環境は掃除や清掃がしやすい工夫をしておきましょう。
便利グッズ撥水シート、ペットシーツ、タイルマット、洗濯し易い素材の犬用クッション
シニア犬の栄養管理
フード
年齢や体型、持病などに合わせて栄養バランスの良いフードを選びましょう。フードは毎日、規則正しく与え、一回に食べる量が減ってきたら給餌回数を増やしましょう。一日に必要なカロリーをしっかり摂れるようにします。DHA、EPA、さらに抗酸化物質を多く含むフードは老化予防に良いといわれています。
サプリメント
フードに加えてサプリメントで栄養素を補うことをお勧めします。
DHA、EPA ⇒ 脳や様々な臓器の老化の原因となる血管の老化予防に良いといわれています。
ポリフェノールやビタミンなどの抗酸化物質 ⇒ 老化の原因となる活性酸素を除去する作用があるといわれています。
運動・脳への刺激
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運動について
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運動は脳の老化予防に効果があり、筋力維持や寝たきり予防にもなりますので積極的に行ってください。シニア犬には散歩をお勧めします。散歩は一度に長い距離を歩くより、短い距離を複数回行くのが良いでしょう。坂道や階段は関節の負担になりますので避けましょう。
転倒しやすい犬はコンクリートを避けて土や草の上を歩かせましょう。歩行に障害がある場合は、犬用に開発された補助具を利用して短い距離の散歩を楽しみましょう。便利グッズ歩行補助ハーネス、車椅子(二輪)、歩行器(四輪)、カート
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脳への刺激
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五感の刺激、遊び、家族や他の犬とのコミュニケーションは、脳の老化を予防する良い刺激となります。散歩に出て、日光を浴び、音を感じ、匂いを嗅がせましょう。運動にはなりませんが、カートに乗せて外に連れ出すだけでも良い刺激が受けられます。
年をとると犬はあまり遊ばなくなりますが、ご褒美にオヤツを使いモチベーションを上げながら遊んであげましょう。犬から要求がなくても適度に構ってあげましょう。
シニア犬が嬉しい、楽しいと思うことを毎日の生活に取り入れましょう。 -
シニア犬の介護
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食事
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シニア犬は低い位置に置いた食器からフードをとることが困難になります。
口や舌の動きが悪くなりフードを食べるのが下手になります。食器をある程度高い位置に置いて、食べ易い形状のお皿で給餌してあげましょう。便利グッズ高さのある食事台、底が丸い皿
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(資料提供:小澤真希子)
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さらに食欲が低下、思うように動けない等の理由により自力で十分に食べられなくなったら、食事介助をしてあげましょう。フードを口に運ぶ、流動食をシリンジで与えるなどの方法があります。
飲水はスポイトやシリンジ、プラスチック製の油さしなどを利用して与えます。便利グッズソフトスプーン、シリンジ、スポイト、プラスチック製油さし
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(資料提供:小澤真希子)
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排泄
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トイレでの排泄が難しい場合は、犬用オムツを使いましょう。オムツのズレ落ち防止にサスペンダー等が販売されています。排便はオムツを外した時にさせるのが良いのですが、難しい場合はオムツを少したるませて履かせてください。
皮膚炎予防のためオムツは頻繁に交換しましょう。汚れやすい部分にワセリンなどを塗ってあげると、皮膚に直接汚れがつくのを防げます。 -
(資料提供:小澤真希子)
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姿勢
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立つことが困難となり、寝ている時間が長くなると、「床ずれ(褥瘡)」ができやすくなります。寝床に柔らかく体圧分散効果のあるクッションを使用し、時々寝ている下面を変えてあげましょう(体位変換)。圧迫されていた部分のマッサージも有効です。
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歩行
筋力が重度に低下して、バランスが悪くなると頻繁に転ぶようになります。補助具を使い身体を支え、転んでも怪我をしにくい場所で歩かせるようにしましょう。
飼い主の皆様へ
認知機能不全症候群になった犬は飼い主の介護を必要とします。夜起きて鳴くなどの行動はご家族にとって大きな負担となるかもしれません。
お一人で問題を抱え込まず、ご家族で共有すると共に動物病院や獣医師に相談しながら長く一緒に過ごしてきた愛犬のケア、介護をしていきましょう。