製品概要
※文章中、[ ]内の参考文献については、参考文献よりご確認ください。
有効成分
アルファキサン®︎ マルチドーズは神経刺激性ステロイド分子であるアルファキサロン(3-α-ヒドロキシ-5-α-プレグナン-11,20-ジオン)を1mL中10mg含有する犬猫用に承認を取得した麻酔導入薬です。
アルファキサロンはステロイド構造を有しますが、性ホルモン受容体、糖質コルチコイド受容体や鉱質コルチコイド分子(核内受容体)とは結合しません[13][14]。
アルファキサロン
プロジェステロン
作用機序
アルファキサロンは、神経伝達に介在するγ-アミノ酪酸サブタイプA(GABAA)受容体を活性化することによって麻酔作用を生じます。GABAA受容体は、哺乳類の中枢神経(CNS)に広く分布しています。GABAは哺乳類CNSの主要な抑制性アミノ酸伝達物質であり、全ニューロンのほぼ半数に存在します[15]。GABAはGABAA受容体の孔を開いて塩化物イオンを流入させ、過分極を生じることによって作用します。アルファキサロンは、GABAの作用を増強することによって、活動電位が生じるのを阻害し、インパルスの伝達を遮断します。
安定性[12]
製剤のバイアルを開封後、1日2回ずつ滅菌注射針で薬液を抜き取り、56日間、室温(20~25℃)で保管して、以下の項目を測定しました。
開封後56日間の品質の低下は見られず、化学的及び物理的安定性はすべての規格に適合しました。
※ クロマトグラフィー法。製剤の含有成分ならびに安定性の確認試験。
アルファキサロンの歴史
20世紀初期に、鎮静薬として作用する、ある種の内因性ホルモンの可能性が認識されるようになりました。1940年代に開始された研究により、多数の候補化合物が合成されましたが、なかでもアルファキサロンは安全性及び有効性の面で最も有望な化合物であることが示されました[16]-[18]。
アルファキサロン分子を元にした麻酔薬の開発及び市販化における初期の取り組みは、有効成分が水溶液に可溶性でなかったため成功しませんでした。別の神経ステロイド「アルファドロン」と併せてアルファキサロンを含有した最初の市販製剤は、ヒマシ油誘導体であるクレモホール溶液として製剤化されました。この化合物は副作用として重篤なアレルギーを引き起こすことから[19]、アルファキサロンを含有するヒト用麻酔薬(Althesin®)と動物用麻酔薬(Saffan®)は、最終的には販売中止となりました。しかし、この副作用を引き起こさない製剤を開発するための研究は継続され[20][21]、1990年代後半、アルファキサロンは可溶化のために複合糖類であるシクロデキストリンを含む製剤として製品化されました。これにより、初期の製剤にみられた副作用の問題は解消されました。アルファキサン® マルチドーズ(Alfaxan® Multidose)は、オーストラリアをはじめ欧州・北米諸国で動物用医薬品として登録、販売されています。
製剤の特徴
アルファキサン® マルチドーズは、注射用水にシクロデキストリンとアルファキサロンを1%(10mg/mL)に溶解した、無色〜微黄色澄明な中性(pH6.8~7.6)の注射液です。保管に際しては、凍結を避け、室温にて保存します。
アルファキサロンの水溶化技術
アルファキサン® マルチドーズの主成分であるアルファキサロン分子は親油性が高いです。
2-α-ヒドロキシ-プロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)と包接体を形成することで水に溶けます。
シクロデキストリンとは6~8分子のD-グルコースが、α(1→4)グルコシド結合した環状オリゴ糖です。
イメージ図;HPβCDと包接されたアルファキサロン